「日本ミツバチの巣が近くの木の洞にあるよ」
今朝、店にやって来た農家が言った。
養鶏農家で、山の高いところに鶏舎を持っていて、その鶏舎の近くにあるのだそうだ。
早速、「見に行ってもいいですか?」
と聞いたところ、
「いいですよ」と快諾。
「じゃあ、今日はどうですか?」と僕。
「しょうがないですねえ」と承諾してくれた。
「岡本さん、いつも、無理をきいてくれてありがとう」心の中で感謝した。
岡本農園は、僕たちがお店を始めたときからの付き合いで、卵や野菜を仕入れている。
循環型農業を基本にしている農家だ。
以前は大きく養鶏をしていたが、現在では3000羽ほどに縮小している。
今日、見に行ったのは、1000羽ほどの鶏舎がある山の中だ。
その場所も、以前は5万羽も飼っていたそうで、昔話を少ししてくれた。
山の中なので、段と法面(段と段の間の斜面)がある。
高さ3mほどの法面に、梅の木があった。
この時期にまだ散っていないところを見ると、津山よりかなり標高が高く、寒いのだろう。
梅の木の周辺に、細い笹が生えている。
笹を掻き分けて入っていくと、大人がひとかかえするより太いくらいの幹があった。
「何の木ですか?」と聞くと、
「桐の木です」と返ってきた。
幹がかなり朽ちていた。高さ3mくらいのところで二股に分かれていて、どちらの幹も折れていた。
足元には、落ちて朽ちている太い幹が転がっていた。
岡本さんはその転がっている太い幹の上に乗り、桐の木の空洞を指差した。
「あまり飛んでいませんね。温かかったときはたくさん飛んでいて、下にいてもブンブンと羽音が聞こえるほどだったんですけど。今日は寒いからいないのでしょうか」
「ほら、いますよ」
「ほんとだ、近寄ったら危ないですよ。こっちに来て」
どうやら岡本さんは日本ミツバチのおとなしさを知らないようだ。
「やさしく声をかければ大丈夫です」僕が言うと、
「さされたら大変だから、近づかないで」という。
「大丈夫です、ほらこんなに近寄ってますよ」
「僕は、知りませんよ。ハチが襲ってきたら、玉置さんを放って一人で逃げますよ~」
だいぶ心配しているが、僕はかまわずカメラを近づける。
写真を2枚撮ったころに、ミツバチが増えてきた。
「ハチが怒って出てきましたよ」相変わらず心配している岡本さん。
「たくさん帰ってきただけですよ。ほら、足に花粉をたくさんつけています。かわいいですね」
「そうなんですか」ハチが寄ってきてもなにくわぬ顔でいる姿を見て、少し安心してきたのか、言葉が変わってきた。
「そうですよ、仲良くなれるんです」
写真を撮り終えて、「満足しました」
僕が言うと、
「向こうに桃を植えてるんです」と岡本さん。
「どこですか?」と聞くと案内してくれた。
「この前ここで、ハイイロチュウヒを見かけたんですよ。それもきれいなグレーのオス」
「どんな鳥なんですか」
「ノスリとかと同じ、鷹の一種で、バードウォッチャーがうらやましがる鳥なんです。このあたりは他にも、野鳥が豊富なんですね。ヤマドリも見かけましたよ」
「そうなんですね」
「野鳥はいいんですねどね、鹿が出るんですよ。近くの牧場から牛が脱走してきますしね」
「あそこに見える牧場ですね」
「鹿が木の幹をかじって大変なんです。果樹園にしたかったんだけど、鹿のせいでだいぶ枯れてしまいました」
「そうなんですか。何とかできないんですかねえ」
一回りした後、
「ハチはどうやったらいいんでしょう?」岡本さんは、少しやる気になってきたようだ。
前から興味はあったと言っていたが、やはり初めてのことなので、わからないことが多いのだろう。
かくゆう僕も、始めて間もないので、よく知っているというわけではない。
「分封群を箱にとらえましょう。それを巣箱に持って帰るんです」
「移さないといけないんですか」
「ここで増やすのなら、ここに巣箱を置いてもいいです。ハチが気に入れば入ってくれるでしょう」
「何かやることがあったら言って下さい」別れ際に岡本さんが言った。
「巣箱を作りましょう。日本ミツバチの蜜をぬっておけば、入る確率が高くなります。僕が持っている蜜を塗りましょう」
農業をしている人がどんどん日本ミツバチを飼うようになると良いと思っている。
津山は少し行けば豊かな自然がある。こんな地域を誇りにしたい。
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